最高裁判所第一小法廷 昭和24年(オ)93号 判決 1952年12月25日
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人弁護士西村日吉麿上告理由第一点について。
控訴審が、第一審の続審の性質を有することは、所論のとおりである。しかし、それは第一審判決を再検討するに必要な限度における続審であつて、覆審におけるがごとく全部に亘つてことごとく新なる手続をすることを要するものではない。控訴審において裁判所の構成が新しくなるのは、控訴の性質上当然のことであつて、普通これを裁判官の更迭とはいわないのである。また、民訴一八七条二項が「裁判官の更迭ある場合に於ては当事者は従前の口頭弁論の結果を陳述することを要す」と定めている外に、特に控訴審の訴訟手続として民訴三七七条二項が「当事者は第一審に於ける口頭弁論の結果を陳述することを要す」と規定していることに徴しても、控訴申立により事件が控訴裁判所に繋属する場合は、訴訟手続上、民訴一八七条にいわゆる裁判官の更迭ある場合には該当しないものと解すべきである。従つて、合議体の裁判官の過半数が更迭した場合に関する同条第三項の規定は、第一審又は第二審の同一審級において裁判官の過半数が変更するに至つた場合に証人の再訊問の申出があつたときの手続を定めたものであつて、第一審裁判所が訊問した証人につき、控訴審において再訊問の申出がつた場合に適用すべきものと解すべきではない。原審が第一審において訊問した証人山本喜穎につき上告人から再訊問の申出があつたに拘わらず、同証人の再訊問をすることなくして結審し第一審における同証人の証言を事実認定の資に供していても、原判決には所論のような違法はない。
同第二点及び上告代理人弁護士蝶野喜代松上告理由第一点について。
上告人が原審において申出た所論の各証拠方法がいわゆる唯一の証拠方法に当らないことは記録上明らかであり、かかる場合裁判所は当事者の申出でた証拠方法につき審理の経過から見て必要がないものと認めるときにはその取調を要しないのであつて、原審が上告人の申請にかかる証人上田善五郎、山本喜穎、山本チエノ及び上告人後見人鶴井頭一(仮名)の各訊問の許否を決することなく結審したことは記録上明らかであるが、訴訟の指揮及びその経過に徴し原審は所論の証拠申請を取調の要なきものとして、暗黙に排斥したものであることが窺われるから、この点につき原判決には所論のような違法はない。その他の論旨は原審の専権に属する証拠の取捨判断を非難するに帰着し、上告理由として採用の限りでない。
同第三点及び上告代理人弁護士蝶野喜代松上告理由第二点について。
原審の挙示する各証拠によれば、原審認定の事実が認められないことはないから、原審の右認定が経験則に反するとまではいえない。そして原判決が「訴外鶴井シズエ(仮名)は本件保険契約の保険料の支払を好まず右保険契約につき解約の意嚮であつた」と認定しているところは、本件保険金債権が譲渡されるに至つた事情乃至動機にすぎずいわゆる間接事実に該当するから、この点につき原審が被上告人側の主張する所論の事実と異る認定をしていても、当事者の主張しない事実に基づいて裁判したものとはいえない。その他の論旨は原審の専権に属する証拠の取捨判断事実認定を非難するものであつて、論旨はすべて理由がない。
よつて民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 真野毅 裁判官 斉藤悠輔 裁判官 岩松三郎)